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映画「天気の子」

一言で言えば、人はいつまでも中二病でいていいんだよ、と言っている映画に思えた。
風景描写は精緻なのに、人生の細部は描かれない。

主人公の少年は故郷を捨てる。犯罪者になってまで故郷に帰ることを拒む。故郷で何があったのか説明されることはない。それはこの映画では考えなくていいんだよというふうに。

主人公は少女との逃走のために、偶然手に入れた拳銃を撃つ。2度も至近距離で発砲したのに死傷者は出ない。都合のよいことに、主人公は殺人者にならない。そして主人公は銃を人に向けた良心の呵責で苦しむこともない。それはこの映画では考えなくていいんだよというふうに。

主人公が止めなかった降雨で東京は水没する。水没した家屋の一軒一軒に人々の暮らしがあり、洪水はそれを破壊したはずだ。しかし映画はそれを描くことはない。それはこの映画では考えなくていいんだよというふうに。

鳥居をくぐった主人公は、自身も天とつながったはずだ。しかし主人公は少女との恋愛を選択し、晴天を願わず人柱になる道を選ばなかった。だから主人公は消滅することなく、あれほど拒絶していた故郷にあっさりと帰り、日常生活に戻る。
降り続く雨に荒廃した東京は、誰かがどうにかしてくれるのだろう。

水没した東京はそれでも復興し、水上交通などの新たなシステムを作って都市の機能を維持する。水害から都市が再起するために、人々にどれだけの苦労があったか。しかしその間、主人公は故郷におり、復興の活動に関わることはない。

主人公は何に葛藤し、何を克服し、人間として成長したのか。
冒頭で過去を振り返るモノローグができるほど、高校卒業後再び上京した彼は成熟していたのだろうか。

天候を狂わせ自責の言葉を口にする主人公に向けられた言葉、
「世界なんてどうせもともと狂ってんだから。」
時に狂気と混沌とに陥りそうになる世界に、理性と秩序を保持しようと努力してきたのが人間の歴史ではないだろうか。
自分の大切な思いを貫くためならば、世界の調和を破壊するほどの狂気も構わないという考えはあまりに幼く、人間の営為の尊い積み重ねを否定するものなら罪深い。
そんなことも、この映画では考えなくていいんだよ、というのだろうか。

現代で自分を尊重したいなら思考停止をしろ、成熟は不要だ、ということなのだろうか。
この映画が今人々に受け入れられているのならば、現代の日本人の思考の深度がわかるような気がした。
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オールド・テロリスト 村上龍

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火花 又吉直樹

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紫式部ダイアリー

このポスターの長澤まさみさん、なんでこんなに人相が悪いのか?と思っていたけれど、
観終わって納得。

紫式部ダイアリー2

明るい奔放さの底に毒気を秘めた紫式部と、感情を抑制した常識派の清少納言。
『枕草子』と『紫式部日記』からの二人のイメージとは正反対だったので、初めは違和感があったのですが。

斉藤由貴さんのお芝居は『君となら』で観ていて、安定感のある女優さんだと思っていたけど、
長澤まさみさんを舞台で観るのは初めてだったし、テレビでは一本調子でおきゃんなイメージがあって、
舞台ではどうかしらん?と観る前は不安だったのですが。

長澤さんがとっても良くて。
抜群のスタイル。立ち姿の美しいこと!
声もよく通って、しかも愛らしさのある声で。
とっても舞台映えのする女優さんでした。
魅力的な俳優さんを目で追うのは、観劇の醍醐味です。

『枕草子』には物事の明るい面しか書いてないので薄っぺらい、と紫式部。
人の心の黒いところを浮き出させるのが文学だと言います。
『枕草子』は、不遇にあった人(中宮定子ね)にあてて書いたものだから、と清少納言。
読者を意識しないで書いていた幸せを懐かしみます。

最後に、清少納言が紫式部の日記を盗み見て、不可解な大笑いをします。
なぜ笑ったのかは説明されないまま、お芝居は幕を下ろします。
あれ、自分の悪口が書かれていたからだよね。
一晩、腹を割って語り合って、気心知れた仲になったと思っていたのに。
実際、『紫式部日記』にも、清少納言の悪口が書いてあるもんね。
紫式部のダサい夫や、藤原道長との恋愛関係など、ちょいちょい史料にあるエピソードが出てくるので、
古典文学好きにはくすぐられるお芝居なのではないでしょうか。

大地のゲーム 綿矢りさ

大地のゲーム

前作『憤死』ではホラーに着手した綿矢さん、今回は村上龍ばり(?)の近未来SFを手がけた!
以下ネタバレ。

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